民話を通して見た自然と生活

豊かな大自然に恵まれた森吉山麓の里へようこそいらっしゃいました。
   この地は、県内の独立峰としては最高峰である森吉山と、阿仁川水系の流域の4つの町から構成されています。
 このコーナーでは、森吉山麓の自然の中に溶け込んで、歴史を積み重ねた日常の生活と文化の中から生まれた民話や伝説を通して見たこの地の自然を紹介します。民話から大自然に深く関わってきた人々のくらしもまた、想像していただければ幸いです。

巻渕付近から望む森吉山
安滝本体
ヤマモミジと安滝
 第2回目に紹介させていただくのは、森吉山のもっとも奥深く、まわりを原生林にかこまれた中で、天から落ちて来るようなほどの雄大な滝「安ノ滝」にまつわる悲しい恋の伝説を紹介します。
「日本の滝百選」にも選ばれている、この滝に秘められた民話の世界に浸って見てください。
         
                                                   安 ノ 滝
                    
  あきた内陸線の比立内駅(阿仁町にある)から、山奥にある打当温泉まで、車で十五分、さらに安ノ滝林道の入口まで、車で二十五分、そこから歩いて四十分、やっとめざす安ノ滝につきます。
 これでおわかりでしょうが、安ノ滝は、森吉山のもっとも奥深いところにあり、まわりは原生林にかこまれています。
 滝の高さが90メートルもあり、下からながめていると、まるで天から落ちて来そうな気がするほどです。
 この雄大な滝に、なぜ、安ノ滝というやさしい名前がつけられたか、これからお話しましょう。
 江戸時代の中ごろ、山師の津国屋という人により、打当の近くに叉崎金山が開かれました。
 山師は、たくさんの人を引きつれて、あちこちの鉱山をわたりあるきますが、地元の人をやとうこともあります。
 山師がつれているのは、みな鉱山をほるプロで、ほとんどが二十代の若者でした。というのも、鉱山の仕事はきついうえに煙(明かりとして竹をもやすため)と鉱石の粉をすって、ほとんどの人が三十歳になるかならないうちに病気でたおれるからです。
 これらの若者たちには、なぜか結婚がゆるされていませんでした。おそらく、妻や子がわたりあるくこころをにぶらせるからだとおもいます。このおきてをやぶると、むちうちなどのひどい刑罰がまっていました。
 さて、この津国屋のもとに、久(ひさ)太郎(たろう)という若者がいました。りっぱな体格をした男ふりのよい若者で、津国屋にもかわいがられ、堀大工をつとめていました。
鉱山には、選鉱などの仕事に地元の女性たちがやとわれていましたが、その中に、ヤスという名のうつくしい娘がいました。マタギの娘で、十七歳くらいだったといいます。
 このヤスが、久太郎をひと目みて、すっかり夢中になってしまいました。遠くに久太郎の姿がみえただけで胸が高なり、そばで目と目があうと、もうまっかに頬をそめ、夜もねむれなくなったほどです。
 久太郎も、ヤスをかわいい娘だとおもっていましたが、山のおきてがありますから、うっかりこころをゆるせません。
 しかし、たがいに好きになれば、恋の火は山火事のように消しがたいもので、ふたりはとうとうはなれがたい仲となりました。
 そして、久太郎は、ヤスの願いをことわりきれず、結婚の約束をしてしまいます。ところが、そのことを津国屋につげぐちした者がいました。
 久太郎は、それをしると、ふいにおそろしくなりました。そして、ヤスには何もいわず姿を消してしまったのです。 
 ヤスは、久太郎がきっとむかえにきてくれると信じて、待ちつづけました。しかし、十日たっても二十日たっても、何のしらせもとどきません。
 ヤスは、かなしさと恋しさで気がくるったようになり、ある日、ふらふらと山奥くへとまよいこんでいきました。そして、大滝の上に立ったヤスは、「ひーさたろおおお」とさけびながら、身を投げたといいます。
 このかなしい恋をしった村びとたちは、やがてこの大滝を、ヤスの滝とよぶようになったということです。

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